オペラは友達
鈴木敬治
No5 「エクレアとオペラ」
今回も変化球の内容となります。私事とはなりますが、筆者は甘党・辛党の両党使いであります。
今回は辛党ワインのお話ではなく、甘党のお話です。のはずでしたが、ちょうど11月第三木曜日にボージョレ・ヌーボーの解禁日がありましたので、少しだけ触れたいと思います。11月の欧州は日本の感覚では気温も低く完全に冬で、日も短く、真っ暗なうちに仕事に出かけて、真っ暗な中帰宅する憂鬱な季節が始まっています。そんななか、カフェーやレストランには一斉にボジョレヌーボー・エタリベ!新酒入荷!新酒到着!の張り紙がでます。大騒ぎして飲むのは日本だけかと思いますが、ちなみに出荷量の半分が日本向けと聞いています。季節のものとして、いつものボルドーやブルゴーニュのグラスワインをちょいと一杯ひっかけて帰る親父たち、労働者達が今日はせっかくだから新酒にしようかという感じで気軽に飲まれています。朝早くから働く清掃員などは冷えたからだをあっためるのに、カフェーでワインやスピリッツを一杯ひっかけてから働く姿をよく見かけました。
さてさて甘党のお話です。皆さんの中には筆者と同じ経験をお持ちの方がおられると思いますが、幼い頃は好きなものをいやというほど食べてみたいとの欲望にかられるものの、現実はそうも行かず、心の奥底にその欲望をしまい込んだまま成長しました。テレビ番組の「ポパイ」の途中での不二家のケーキやチョコレートのCMはおいしそうで、たまりませんでした。
私にとってスイーツの中で幼き頃から思いっきり食べたくて仕方がなかったもの。その最たるものはエクレアです。後年モンブランもこれに加わりました。
エクレアとはフランス語のエクレール(Éclair)、英語読みエクレアのことで、意味は「稲妻」。稲妻のごとく一瞬で食べられるからとのこと、甘党としてはその気持ち、十分理解できます。細長く焼いたシュー生地にショコラやキャラメルを表面に塗ったものがスタンダードであります。今は表面にいろいろな素材で変化をつけたエクレアの天才といわれるクリストフ・アダンなるパテイシエが現れて日本にも進出している由。
さてこのエクレア、筆者は幼き頃から、飽きがくるほど食べてみたいとの執念を持ち続け、会社に入社して、支給された初任給で会社の独身寮大竹寮近くの洋菓子店で2ダース近くを買いこみ、寮の部屋に帰り一人で、それこそもう食べられないほど食べて、大の字になって、「幸せーー」と叫んだものです。いやーー、おかしな奴ですね。
パリやフランスの町々の町角には小さなパン屋さんが必ずあり、パン屋なのにエクレアはなぜか必ず売られている定番のお菓子です。
前置きが長くなりましたが、ここからがオペラにつながります。このフランスのケーキの中でも最も高級感を漂わせて並べられているのが「オペラ」という名前のお菓子です。甘いもの好きの方なら必ずご存じのお菓子です。日本にも進出している、パリの洋菓子店・ダロワイヨのオーナー、シリアック・ガビヨンが発案したお菓子です。この外観はエレガントな大きすぎず小さすぎずの長方形で、7層からなるケーキです。
絢爛豪華な威容で知られるオペラ座をモデルとして作られ、ケーキの表面にはオペラ座の屋根に立つアポローン神像の黄金の琴にちなみ、金箔を施されています。グランマニエかコワントローをしみこませたビスキュイ・ジョコンダの生地にコーヒーバターやモカシロップで層を創り、表面をチョコレートで覆ったものです。ちなみにグランマニエかコワントローは洋菓子で使うフランス産リキュールの定番中の定番で、グランマニエはコニャックベースでコワントローはスピリッツベースでいずれもオレンジのエキスを使用しますが、コワントローはオレンジの苦みがないのが特徴です。フランスの家庭なら母親の菓子作りの材料として必ずといっていいほど各家庭の台所に存在しているものです。オペラはお菓子の外観としても、味としてもエレガントなもので、定番中の定番の洋菓子です。ぜひ皆さまご存じなかった方は、一度ご賞味あれ!
以上 今回はフランスのお菓子のお話でしたが、オペラの名前のもととなったオペラ座の素晴らしい歴史や装飾についての展覧会がちょうどいいタイミングで旧ブリジストン美術館、今はアーテイゾン美術館と名称が変更となった美術館で「パリ・オペラ座 響き合う芸術の殿堂」展が開催されています、会期は2月5日までです。今回三井化学本社が移転する東京ミッドタウン八重洲の近くですのでぜひ皆さんぜひ一度足をお運びください。