登山に出掛けて目標の山を登り終え、下山したら山麓の温泉宿に泊ることが多い。秘境の温泉宿は山奥らしい風情があってよい。ゆったりとした気分で入浴、酒宴を楽しむのが魅力である。温泉宿の屋外に設けられた露天風呂もよいが、山中や山麓の海辺、湖畔にある天然の露天風呂(野天風呂)は雄大な自然に取り囲まれて入浴する開放感が宿のものと比べようがなく大きい。そこで出会った人との触れ合いも忘れ難い思い出となる。
私が見付けたそんな素晴らしい天然の露天風呂として白馬岳北面にある蓮華温泉・仙気ノ湯を紹介する。
蓮華温泉は白馬岳の北東にある登山口、夏はここまで車が入るので混雑する。雪の季節は登山者、スキーツアーの限られた人だけが訪れる。
5月の連休に山仲間三人、山スキーで雪倉岳に登ろうと蓮華温泉を目指した。
栂池スキー場の最上部でスキーにシールを張り、ビンディングを踵フリーにして天狗原まで歩いて上る。北端まで行ってシールを外し、ビンディングをセットして振子沢を滑降し、蓮華温泉に入った。
夜半の雨が明け方雪に変わり、強風が吹き荒れている。雪が止み、視界が晴れても相変わらず風が強いので、雪倉岳には登れそうにない。そこで蓮華温泉から天狗の庭、白馬大池に伸びる尾根を行ける所まで上がって、スキーで滑り降りてこようと決めた。
急傾斜の尾根を上るに連れて、雪倉岳がせり上がってくる。頂上付近は強風で雪煙が上がっているのが見える。
段々と傾斜がきつくなり、高度1750m、栂ノ森の小ピーク近くで「今日はこれまで」と下りることにした。
堅雪の上に新雪が薄く積もった雪質は滑りやすい。急斜面で回転すると大きく跳ね飛ばすように雪がずり落ちるが、抵抗感はない。苦労して上った尾根の広大な斜面を思い思いに滑ってブナ、シラビソに取り囲まれた蓮華ノ森の陽だまりに腰を下ろして昼食。
小屋に戻るとウィスキー、水、おつまみを持って周辺の露天風呂の中で最も大きい仙気ノ湯に出掛けた。この湯の少し上に薬師ノ湯がある。「あの標柱に赤いシャツが掛けられているでしょう。女性が入っていますというシルシ。行ってはダメダメ」とここで止められる。
朝日岳を真正面にした眺めが素晴らしい。今日登った天狗ノ庭への尾根が左手に、私たちが滑り降りたシュプールが鮮やかに残っている。
朝日岳正面の急斜面に雪崩かスキーのシュプールのようなものが見える。
どうもシュプールらしいが、物凄いところを滑ったものだ。「朝日岳へは昨日登ってきた。今日は天気が悪そうなので風呂に入って休養。明日は雪倉岳へ往復する」と行き会った人達と風呂場の山談義。
爽やかな風が吹いて気持ちが良い。1時間ほどぬる目の浴槽で飲んでいるうちにボトル1本が空いてしまった。
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雪煙を上げる雪倉岳 |
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蓮華温泉・仙気ノ湯 |
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蓮華温泉から見た白馬朝日岳 |