土居氏の「非常勤講師体験記」で言及された「ハイゼックス法」、ポリエチレン袋での炊き出しにこの名前が付けられた謎について、情報をお寄せいただいた会員の皆様、ありがとうございました。
以下に要約して掲載します。
1959年9月、台風15号が日本を襲い甚大な被害をもたらしました。潮岬に上陸した伊勢湾台風です。人的被害、経済的被害等々、戦後最悪の台風災害でした。三井化学名古屋工業所も大変な被害にあったとのことです。
この時、災害地で配られた炊き出しのおむすびから、食中毒が発生しました。愛知の赤十字は、この反省から、
「どうやったら日持ちがするか」
「簡単に大量炊飯するにはどうしたらよいか」
との課題に向き合い、自主防災機器メーカーと共同開発したのが「ハイゼックス法」と呼ばれる救援用炊飯袋(非常用炊飯袋)です。
低圧法高密度ポリエチレンを素材としたこの救援用炊飯袋には、以下のような利点があると言われています。
・水を通さないため、泥水で湯がいても炊飯できる。
・空気抜きをして使用でき、保存、配食に便利。
・縦に裂ける性質から、裂いて食器代わりになる。
この救援用炊飯袋(非常用炊飯袋)は、「ハイゼックス包装食」などの名称で商品化もされています。
「Hi-zex(TM)」は、ご存知の通り、三井石油化学が生産し旧三井化学が1958年に上市した低圧法高密度ポリエチレンの商品名です。当初月産千トンの規模で生産を開始し、同年秋の「フラフープブーム」で在庫を一掃したこともありました。
この翌年、衛生的な炊飯方法を模索していた愛知の赤十字が、ハイゼックスのフィルムグレードに着目して、非常用炊飯袋としての利用を考案したのではないかと推察されます。現在でもこの袋を使った炊き出し実習や非常食のレシピ開発が、日本赤十字を中心に行われています。
現時点で判明した事柄は以上で、半世紀以上昔に当時三井化学がどのようにこの利用法開発にかかわったかは定かではありません。
引用文献
◆伊勢湾台風 - Wikipedia
◆「ハイゼックス」高分子 Vo1.13,No,151[823] 秋山道夫
◆災害時救援用炊飯袋を使った料理の試み
別府大学短期大学部紀要 第32号(2013)
◆包装食袋を使った非常食 レシピ集