もう10数年前のことである。8月上旬中房温泉から燕山荘に上って一泊。翌朝山荘の前に出ると、東側に少し霧があるものの晴れ上った空に燕岳がすっきりした姿を見せていた。
歩き始めて間もなく霧が動き始め、北燕岳は上部の岩稜が見えるだけで基部は霧に覆われ始めた。燕岳山頂に着く頃には濃い霧となって周囲は何も見えなくなってしまった。
山頂に立っと西側の霧の中に山影と人影が黒く写り、人影の周りが仏像の後輪のようにリング状に光っていた。ブロッケンと呼ばれる現象である。
太陽の光が背後から差し込み、影の側にある霧粒によって光が散乱、人の影の周りに虹に似た光の輪となって現れる現象と言われる。
太陽が高くなり、気温が上ると霧は晴れ、槍ヶ岳、双六岳など周囲の山々がずらりと見えてきた。山頂でのブロッケンは束の間の不思議な体験だった。
ウィンパーがマッターホルンに初登頂して下山する途中、メンバー4人が墜落死する悲劇を迎えた。この時天空に大きな十字架の幻影が二つ並んで現れるのを見ている。ブエッケンを見たようだ。