I.中国人の今日この頃
1.すれ違う両国民の思い(1月10日掲載)
2.中国との印象的な出会い(1月26日掲載)
3.住宅事情あれこれ (3月9日掲載)
4.お国変わればやり方、考え方も違う(5月 8日掲載)
5.ある水墨画家との出会い(6月22日掲載)
6.魅力あふれる観光地と歴史的遺産(8月24日掲載)
II.政治と経済のあれこれ
第一章では中国の庶民生活を中心に書いてきましたが、ここ第二章では少し難しい政治・経済方面を軟らかめにお話してみたいと思います。
1. この国の思いと指導者の思いと
中国の成長ぶりは上海でこの15年間程の景色の移り変わりを見ているだけで実感できます。私の上海赴任の15年前には上海には超高層ビル(80階以上のビル)は、浦東にある金茂ビル(88階建て)のみでした。しかし、その後2008年に上海世界金融センター(森ビル、101階建て)、2017年には上海タワー(119階建て)が次々開業し、今や“トリプルタワー”として上海名物の景色となっています。これは正に中国の成長を象徴する大変化です。
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写真1
10年前一棟だけだった超高層ビル |
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写真2
現在の上海を代表するトリプルタワービル |
こうした中国の成長の荒ましさから、最近では世界では何年先に米国を抜いてGDP世界一になるか話題になっています。早ければ2030年前にはとも言われています。しかし中国人にとっては、わずか160年程前までは1千年以上中国が世界GDPの三分の一を占め断トツの一位を占めていただけに、そこに回帰するだけという思いがあります。この160年の間に不幸にも清朝末期の混乱に乗じて外国勢につけ入られ、その後の国内の混乱もあり遅れただけということです。今の驚異の発展も中国人の思いとしては単に原点回帰かもしれません。
この国はそもそも王朝国家が基本的には数百年単位で、戦火などを交えて入れ替わりながら数千年継承されてきた国家です。現在も共産党指導体制は、一種の集団的王朝体制ともいえましょう。時には毛沢東のような強力な指導者に国を委ねますが、基本的には集団指導体制です。
しかしこの指導体制は国民の投票で民主的に選ばれたものではないため、外からは抑圧的な国家と見られ勝ちですが、その分人民の不満が貯まるのを当局は非常に気にしています。何故ならば何千年の歴史を見ても、王朝の崩壊は庶民の溜まった不満のマグマが原因でした。従って人々が集まって何かを訴える行為や集会に対しては、厳しいものがあります。
私も数年前日中友好学生交流会を企画しましたが全て許可制で厄介でした。ただ、官製デモと言うのがあるようで、政府の意志を庶民のデモを通して訴えることもあります。反日デモもこうした背景を持つこともあるようです。
記憶に新しいのが2012年の尖閣諸島国有化に対する反日デモでした。これは激しすぎて、政府は途中から抑えに回りました。あまり激しいと現共産党政権に向かう危険性があるからです。参加者の中には本当の反日というより、日頃の不満のはけ口としている人々もいるため、何でもいいから破壊してやれとなるのです。
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写真3.尖閣国有化で起きた反日デモ |
この国の指導者が常に気にしてきたのは前述の通り人民の不満がうっ積していないかと言うことです。当局にとって、勿論個人的に如何に権力を得るかと言う思いはあるにせよ、突き詰めると“民を如何に飢えさせないか”ということが大きな任務でした。兎に角、この国は広大な国土を持ち世界一多くの人を養わなければなりません。
王朝が持続しなかった究極の原因は、王朝内の腐敗・内紛か人民の貧困・飢餓がほとんどです。一人っ子政策も人口増加からの資源不足を心配したからです。10年ほど前から中国のアフリカや南米での資源開発投資が新聞紙上を賑わしてきましたが、これも民を養う本能かもしれません。最近は、こうした活動をもっとスマートに展開しているのが“一帯一路”構想です。昔のシルクロードに加えて海のシルクロードを合わせて周辺国を開発して行こうとしていますが、民を食わせる積極的な戦略とも見えます。
今から600年以上前の明の時代に、鄭和の7度にわたる大航海が有名です。東南アジア、インド、アフリカまで2万人もの陣容で遠征し年単位で交易などを行ったようです。膨大な費用を費やしたため財政を圧迫し、明王朝の崩壊を早めたとも言われます。確かに、今の共産党政権、特に提唱者・習近平主席の頭の中ではこうしたところに発想の原点があるのかもしれません。
しかし、明時代より一歩進んでいるのは財政的に苦しまないようにアジアインフラ開発銀行(AIIB)を設立し、100以上の国の協力を得ているのはすごい所です。『中国の夢』を遂げるために世界の協力を得る形ですが、昔の中国が一方的に強かった時代と現在では世界情勢が全く違っているため、中国の思惑どおりに進めるのはそう簡単ではなさそうです。