古くから山岳信仰では山に神が宿るとされ、山上で見る日の出をご来光と呼んで崇めてきた。正月に初日の出を拝みに行くのも同様な気持ちからだろう。
登山では単に頂上に立つだけでなく、ご来光を見る機会があると敬虔な気持ちになる。思い出に残る山上の日の出を幾つか紹介する。
1. 蝶ヶ岳の夜明け
25年程前、蝶ヶ岳(2677m)に登った。早朝、展望台で日の出を待つ。暗闇が次第に明るくなり、東の方、雲海の上に橙色の太陽が顔を覗かせた。
穂高や槍の稜線が朝日に照らされて山肌が赤く染まってきた。太陽が高く上るに連れて涸沢カール、前穂北尾根など下の方もはっきりと見えてきた。真っ赤な太陽を浴びて私達の身も心も清められるような感じだった。
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蝶ヶ岳の夜明け |
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朝焼けした穂高連峰と槍ヶ岳 |
2. 宝剣岳の夜明け
15年ほど前の夏の終りに、学生時代の山仲間と二人で木曾駒ケ岳(2955m)から空木岳(2863m)へ縦走した。ロープウェイで千丈敷カールへ、更に乗越浄土に出て宝剣山荘に一泊。
翌朝、乗越に出てご来光を待った。目の前に続く日和山、伊那前岳の稜線はまだ黒いシルエットを見せるだけであるが、東の方、南アルプスの山際から太陽がピカッと光り始めた。ご来光である。
乗越から眺める宝剣岳は朝日に照らされて黄金色に染まり、千畳敷カールの草もみじも同じ色に照り映えていた。宝剣岳頂上(2931m)にはもう人影が立っているのが見られた。まだ暗いうちに行動を開始して登ったのだろう。
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乗越浄土の夜明け |
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黄金色に染まった宝剣岳 |
3.北岳の夜明け
野呂川源流の両俣小屋から北岳(3192m)に登頂、頂上直下にある肩の小屋に泊まった。
翌朝4時半に起床してご来光を待つ。薄明かりの中で黒々とした鳳凰山の上に太陽が顔を覗かせると、周囲から思わず「万歳」の声が上がった。
茜色の空をバックに、富士山が雲海の上に黒々と浮かび上がった。暗闇に沈んでいた北岳が朝焼けして一瞬赤く染まり、やがて黄金色に変わりながら明るく照らし出されてきた。何時もながら、晴れた日のご来光は心が清められ、古代の人々が太陽を崇めたのが分かるような気がする。
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北岳肩の小屋から 鳳凰山稜線から日の出 |
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北岳肩の小屋から見た富士山 |
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朝焼けした北岳 |