I.中国人の今日この頃
1.すれ違う両国民の思い(1月10日掲載)
2.中国との印象的な出会い(1月26日掲載)
3.住宅事情あれこれ
私が2004年から上海に住みだしてから驚いたことは、市内では住民の大半が高層住宅に住んでいることです。それも30~40階のビルです。まず一戸建てに住んでいる人は皆無です。勿論古い低層階の集合住宅に住んでいる人もいますが、この十数年の間に次々と壊されて商業ビルやマンションンに建て替えられてしまっています。ここ10年余りで地下鉄網が整備されつつありますが、元々上海市内では鉄道交通網が貧弱であったため庶民は都心に住みたがりました。町の中心部は人も企業も増える一方で高層ビルを建てないと吸収できなくなっています。大分前に初めて香港を訪れた時に高層ビルだけで成り立っている都市国家を見て驚きましたが、中国では今や大都市で高層ビルによる都市化が加速しています。単純に考えて日本の30倍近い国土なのだから、何もあんなに立て込んだマンション群に住まなくても良いものをと思うことが有ります。でも都市に住むことによって職を得たり高度教育の享受などの利便性が勝るから集まってくのでしょう。
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(写真1)中山公園越しに見る高層マンション群 |
私が上海に住み始めた2004年から現在までの間で、私の肌感ではマンション価格は7~8倍になっている気がします。私の友人の経験では、2008年に浦東で購入した時1万元/平米だったものが、今は8万元/平米だそうです。公式統計上は大都市の平均の値上がり率は4倍強ですが、日本の不動産の歴史の中でこんなに短期間に8倍にも値上がりしたことはありません。日本の経験から日本の経済学者は中国の不動産はバブルだとこの10年程ズーット言い続けていますが、未だに大きく値崩れする事態が起こっていません。これは金融当局は不動産価格が過熱しかけると各種の引き締め策を的確かつ敏速に実行するのを初め、元々大都市に住んでいる人がより良い住居に移たり投資や貸家目的で購入したりで、根強い実需に支えられているからだと思われます。上海近辺ではマスコミで騒がれたような誰も住まない新築の“お化けマンション”を見たことが有りません。
上海市内の勤務先に40~50分で通勤できる高層マンションは6~7千万円が普通で、この十年で地下鉄網が急発展したため地下鉄の駅から近いものでは1億を超えるものはざらにあります。学卒の初任給が月5~6千元(8.5~10.2万円)ですから、単純に考えても50年分の年収でようやく買える額ですから異常としか言いようがありません。現在の東京のマンション価格よりも単純に言えば40~50%程高いでしょう。
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(写真2)拡大を続ける現在の上海地下鉄網 |
こういう状況下で苦労しているのは未婚の若者です。特に未婚の男性です。と言いますのも、中国の古くからの慣行では結婚の必要条件として男性側が住居を手配できていることです。私の関係している大学の卒業生やMCI上海の昔の部下たちもこのことを当たり前のように言うので、日本の常識ではとても理解できません。恋愛関係にあっても、男性側に家の手当てができないと泣く泣く別れるケースも珍しくありません。大都市での若者の婚期がどんどん遅れてきているのもこの辺に原因がありそうです。多分この慣行は家系(姓)を引き継ぎ墓を守る男性側が備えるべき当然のことであるという考えに加え、家が今ほど高くなかった時代の慣行がそのまま引き継がれているのでしょう。大都市ではこの慣習は早晩成り立たないでしょう。現実問題で現在結婚する人の状況を見ると、若い内に財を成したよほどのやり手を除けば、大抵の男性が結婚する時は男性の親がほとんど負担しています。親も自分の老後があるだろうに、悩ましいことです。最近の若い女性に聞くと、『家は当然として車も必要ね!』とシャーシャーと言うのには開いた口が塞がりません。
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(写真3)年々豪華さを求める中国人カップル |
こういったひどい状況に少し変化が見えて来ています。2年程まえの民事裁判での判例によりますと、男女折半で住宅を手配すること。その代り所有権も折半でとなったようです。また最近の結婚では頭金は男性側が出すが、後はローンを組み二人で返済していくケースも増えているようです。ようやくグローバルスタンダードへの軌道に乗りつつあるのかもしれません。それにしても日本の若い未婚男性は中国に生まれなくて良かったと思うのではないでしょうか。そして中国では、男の子の親でなくて良かったと思うかは微妙です。