荘厳な教会に響きわたる歌声 (3)
投稿者:落合 英実
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団長さんの苦労
今回のイタリア公演旅行は合唱団の指導者が若い時に研鑽を積んだイタリア・ミラノに縁があって、その関係で実現したもの。従って、基本的なことはその指導者とイタリアの関係者の間で話し合いの結果決められた。しかし、実務を伴うとともに、参加者が30名近いこともあり、今回の訪イに当たり、「団長」を決める必要があった。合唱団そのものの団長は地元の中学校の音楽の先生であった女性が地元との関係で「団長」であるが、「イタリア公演旅行団の団長」を決めなければならないということになり、白羽の矢が立ったのが自分。言葉の問題やこれまでの経験などが考慮されて自然の流れで「団長」に指名されたようだ。ただ、その後、大きな苦労が伴うとは思いもよらなかった。最後まで自分にそのしわ寄せが来るとは思わなかった。結果的に不本意なしわ寄せとなった。

自主公演では衆目の中でソリストに絡む役も・・・。
田舎の町で合唱をやるのは現役の社会人は少ない。高齢化社会の日本の縮図というか街にあふれる老人が主体である。自分たちの合唱団もその縮図の中にある。おまけに人数不足ということで、指導者が主催している「カルチャー」のメンバーも参加することになった。高齢者が多いということは「不都合」も多いということ。キャンセル者が続出した。本人の都合が悪くなった人や配偶者が調子悪くなったとか点でバラバラに連絡がある。その都度イタリアへメールする羽目になる。契約書には当然のことながら「キャンセル条項」もある。観光旅行などの固定費部分の負担があるからだ。おまけにそこに「ユーロ」という為替問題がある。前払金があるので、キャンセルは為替の影響をもろに受ける。為替は日々変わるのだ。
唯一の救いはフライトをインターネットでそれぞれにとったことである。旅行費用を抑えるために、旅行社を通さないことにしたのだ。でもそれはまた、「団長泣かせ」の原因となった。旅行社を通さないということは完全に「個人旅行」ということ。何かトラブルがあってもそれは自分たちで解決しなければならないということだった。旅行日が近づくにつれ、不安が高まった。30人弱で8日間の旅行。すなわち「延べ240日」の海外旅行となる。しかも参加者の平均年齢は軽く60才を越えている。中には80歳代のおばあさんも数人いる。旅行社を通せば、よくて「家族同伴」が必須条件、場合によってはそんな老人の参加は拒否されることであろう。
ホームステイ者も3割くらいいることから、緊急時の連絡もままならない。ステイ先へ電話をするにも英語がほとんど通用しないステイ先にはイタリア語で話すしかない。不可能だ。「滞在中の団員同志の連絡網をどうするか?」「異常事態発生の時の留守家族への緊急連絡態勢はどうか?」「入院となった場合、誰が付き添うか」など気にすればするほど、難題が頭を支配する。
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ホームステイのための会話集
「ホームステイできるから、ホテル代はかからない」という甘い言葉に誘われて無条件に参加を決めた今回のイタリア演奏旅行。半数以上がホームステイを希望した。「ホームステイすれば、単なるツアーとはちがった深い交流ができる」ということは大きな魅力である。通常のツアーでは現地の人たちと触れることもほとんどない。ホームステイ大賛成である。そこですぐにイタリア語の勉強を始めた。話が持ち上がった去年の4月。すぐにラジオ講座を聞き始め、そしてタイミングよく始まった市内での「イタリア語入門講座」にも加わった。イタリア語の辞書を買い、「一人歩きの会話集・イタリア語」も買った。目的があるから勉強もまじめだ。アルファベットの発音から始まった。「ボンジョルノ」「グラシアス」「チャオ」なども覚えた。「アリベデルチ」は映画などで耳にしたこともある。難しい文法にも臆することもなく取り組んだ。
外国語の勉強は日々「未知との遭遇」である。日々、新鮮である。飼い主が日本人であろうと外国人であろうと、犬や猫は主人の言葉を理解する。ラジオ講座も必要ない。赤ちゃんに至っては日々上達し、ヒヤリングもスピーキングも目を見張るほどの上達だ。でも、自分は・・・。60年近く前に始めた英語も今なおままならない。でも新しい言語の勉強は進歩が目に見える感じがする。幸いイタリア語はスペイン語に似ている。勘を働かせれば理解できそうな単語もたくさんある。ほとんど使ったことのないスペイン語であるが、25年前の努力が助けとなった。
ホームステイするからには「おはよう」とか「ありがとう」ばかりでなく、「ごちそうさま」の言葉は不可欠だろう。共通の趣味が歌であれば「一緒にうたおう」ということにもなりかねない。そうだ。お土産も持って行くので「コレつまらないものですが・・・」という言葉もあった方がいい。夜遅い国だけど、「もう寝たい。おやすみなさい。」も言わないで部屋に引き下がるわけにもいかない。夜の遅いイタリアだから朝も遅いと思われるイタリア。「朝食は何時ですか?」という難しい言葉も必要だ。気にすればするほど必要と思われる言葉が思い浮かんでくる。しかも自分の能力を超えて・・・。そこで「会話集」を作り、みんなにも配った。でも、全くの初心者が参考書に書いてあることを寄せ集めて作った会話集は違いもたくさんあった(ようだ。)でも、初心者が完ぺきな言葉でしゃべったら可愛げがない。年とった日本人でもとたどたどしく言葉を発すれば、若くはなくても好感を持ってもらえることだろう。後は(老人でも)にっこり笑ってごまかせばいい。
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ホームステイが突然ダメに
ところが突然、しかも出発直前になって、ホームステイが出来なくなった。受け入れ先の都合でだめということになった。出発直前になって、大いに不本意なことになった。「ホームステイの会話集」は自分には必要のないものになってしまった。
ホームステイが出来なければ、ホテルの泊まるしかない。まして飛行機は格安チケットをネットで取っているし、キャンセルすれば全損だ。観光旅行の費用も支払っており、出発直前で大半がキャンセル料に消えてしまう。「行くのはやめた」と言いたかったが、前払い済のお金はほとんどが戻ってこない。同行のメンバーが泊まるホテルは取れそうにないという情報も伝わってくる。自分でホテルを探すしかなくなった。最悪、「ミラノ市内に一人で泊まり、公演がある日にタクシーで通えばいいだろう」とミラノ市内のホテルを探したが、観光都市であるミラノのホテル代は馬鹿高い。既に支払った飛行機代と観光旅行代を考えると、できるだけ安いホテルを探さなければならない。これまで何度も台湾へ行ったことからインターネットでのホテルの確保は慣れている。運よく、「空がない」という同行者のホテルの予約サイトが見つかった。ところがそのサイトはイタリア語のものしかなかった。迷った。予約するのを1日待った。自信がなかった。でも、料金は旅行社を通した同行者よりもほんの少し安かった。時間がない。やるしかないという結論が出た。全くの初心者とはいえ、1年前からイタリア語の勉強をしている。辞書も持っている。その辞書を片手に必要項目を入力した。名詞の羅列の記入項目は概ね間違いなく書き入れた。勇気を出してクリックした。ホッとした。「うまくいったようだ。」
ところが、ネット予約の場合、あまり時間をおかずにレスポンスが来るはずなのに、来ない。
「おかしいな?」
「まあ、ちょっと待とう。」
時間が過ぎた。
「おかしいな?」
「どうしたんだろう?」
「そうか、イタリアとは時差が6~7時間あるな。そのせいだろう?」
でも返事は来なかった。
「もう1回予約をやり直そうか?」と思った。
でも「ダブルブッキングになったら困る。」
「もうこれ以上の費用負担には耐えられない。」
困った。悩んだ。
「どうすればいいんだ?」
「電話をかけて、確認するしかないかな?」
「でも複雑な話になると、うまく通じるか自信がない。」
ふと、名案が浮かんだ。
「そうだ。イタリアの旅行社のAngelaに確認してもらおう。」

(冷蔵庫もない田舎のビジネスホテル)
すぐにAngelaにメールした。しかし、時差があるので、その解決には数日かかった。案の定、ネットでの予約はできていなかった。予約のクリックしたつもりだったが、正しくなかったようだ。Angelaは事情を理解し、そのホテルを予約してくれた。それも他のメンバーより安い料金で。 |
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外国送金
ホテルの予約がインターネットでなく旅行社経由となったことから、その代金の送金が必要になった。宿泊した時にホテルで直接払えば済むはずだが、旅行社から事前に代金を払うようにとの連絡。
外国送金にはある程度の知識がいる。専門知識がいる。幸い、自分は資金部在籍時のその経験がある。地元の地銀の支店から、送金した。銀行の担当者はまだあまり外国送金の経験がないようだった。それでも何とか送金処理が済んだ。早速、イタリアの旅行社へメールした。数日後、その旅行社からお金が届いていないというメールが来た。すぐに(と言っても時差の関係で翌朝)銀行に行った。その担当者はすぐに本店へ連絡したが、彼自身、何が原因かは全く理解できない様子であった。むしろ自分の方が詳しかった。「SWIFTコード」があるので、追跡調査すれば分かるはずだと教えてもその意味さえよく理解できない感じだった。なかなか埒が明かなかった。数日が経った。外国為替の課長も加わって、原因追及のために本店と掛け合った。理由は、どうやら、送金先の銀行に問題があったようだった。そういえば、半年前、前払金を三菱UFJ銀行(旧東京銀行)から送金した時、もすんなりいかなかったらしかったが、経験豊富な三菱UFJ銀行は独自に問題を解決してくれていたようだった。
この間、イタリアの旅行社にも被仕向銀行経由で調べてもらっていたが、「着金確認」の連絡があったのは出発の5日前であった。 |
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なかなか通じない英語とイタリア語の勉強
イタリアでは英語を話す人は意外に少ないということは事前に聞いていたけど、「ヨーロッパの国だからそんなことはないだろう」と半信半疑だったが、事実であった。外国人客も泊まるビジネスホテルなのに、英語を話すホテルスタッフはほんの一握り。そうなると全くの初心者であっても、頼らざるを得ないのはイタリア語。否応なく、わずかながらの覚えたてのイタリア語を総動員して、会話を成立させなければならない。身振り手振りを加えてでも、こちらの意思は伝えなくてはならない。相手の意思の理解は後回しでもやむを得ない。自分の意思を相手に理解させることが最優先だ。
ある日の夕方、ホテルに迎えの車が来た。夜の演奏会のために、先方の団員が車を出して送迎してくれるのだ。車は4台だった。「(乗るのは)12人?」と聞く。「いや、13人。」と返事すると、「12人(と聞いている。)」という。でも、現実に13人いる。我々の方には家族がついてきている人が1組いたのだが、どうやらその一人がカウントされていなかったようだ。ところが「家族がついてきている人が1組いる。」と言えばすんなり伝わるはずだけど、そんな難しいことはイタリア語では言えない。どう考えてもそんな高度なイタリア語はしゃべれない。コミュニケーションに困った。ふと別の言い方が思い浮かんだ。「歌う人12人、歌わない人1人」もちろんイタリア語でいうのだが、幸い数字は20くらいまでだったら、まあすんなり言える。「Canto 12、Non Canto 1。」と言ったら、相手はすぐに理解してくれた。理解をしてはくれたものの、迎えの車には12人しか乗れない。ピストン輸送してもらうしかなかった。やむを得ず自分とその家族の人二人が居残ったが、ホテルから演奏会場までは片道20分程度。夜の9時から始まる演奏会だからよかったが、それでも、自分が会場に着いたときにはリハーサルも終わっていた。昼間の観光の後の演奏会で、午後9時開演ではあったが、飲み水をとる余裕もなく、本番では声がかすれてしまった。「砂山」はバスの3人で歌ったが最悪だった。 |
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