冬になると飛騨・高山や信州・豊科に住む山仲間から雪便りと雪山の写真が届く。
冬の北アルプス高峰に登る体力はもうないが、若い頃に登った時のことを思い出しながら見るのも楽しい。送られてきた写真をご覧下さい。
冬の高山は裏日本と同様にどんよりとした曇り空に雪がちらついて、すっきり晴れることは滅多にない。時折移動性高気圧が来ると、周囲の山々が姿を現す。
そんな晴れた日には市街地の背後にある城山(高山城跡公園)に上って白く輝く北アルプスの山々を眺めるのが楽しみだと言う。
比較的近い位置にある笠ヶ岳や槍ヶ岳は澄んだ空気にはっきりと見えて素晴らしいパノラマとなる。笠ヶ岳正面の「つ」の字形に湾曲した尾根は笠ヶ岳南西尾根。幕末にこの山を開いた播隆上人は笠谷からこの尾根の最低鞍部に出て登頂した。
 |
城山から見た笠ヶ岳(左)と槍ヶ岳(右、大槍、小槍が二つ並んで見える) |
移動性高気圧にすっぽり覆われて晴天が2、3日続くのを見定めると、もう少し遠いところにある飛騨の里山に日帰り登山して、近い位置から山を眺める。
穂高連峰西面を眺めるのによいのは平湯方面にある国見岳(1317m)。
写真中央の真っ白な峰は涸沢岳。頂上から左下に長く延びるのは飛騨側から冬の穂高連峰に登るルートとなる涸沢岳西尾根。
その左の黒々とした峰は北穂高岳。正面の滝谷には日が差さず、陰鬱な眺めとなっている。
涸沢岳の右の峰は奥穂高岳。山頂の右に聳えるのがジャンダルムで、これから飛騨尾根の岩稜が急角度で谷に向かって落ち込んでいる。
 |
国見岳から見た穂高連峰西面 |
槍ヶ岳から西に延びる尾根上にある奥丸山(2439m)から間近かに見る穂高連峰西面の眺めは迫力があって圧巻だった。薄っすらと新雪を着けた北穂高岳滝谷の岩壁や涸沢岳の岩稜が細かなところまで読みとれる。
 |
奥丸山から見た北穂高岳滝谷の岩壁 |
豊科からは蝶ヶ岳(2677m)に登って見た新雪の穂高岳東面の写真が届いた。
主な峰は写真左から順に前穂高岳、奥穂高岳、涸沢岳、北穂高岳、これらに囲まれた圏谷が涸沢カール。前穂から右下に延びるのは北尾根、奥穂と涸沢岳の間の白い小さな尾根に一筋入っているところが涸沢から奥穂への登降ルートとなるザイテングラードである。
70歳近い年齢で、豊科の自宅から蝶ヶ岳山頂を日帰り往復するというから驚異的な登降スピードである。
 |
蝶ヶ岳から見た穂高連峰東面 |
雪の状態が落ち着いた5月上旬、奥穂高岳頂上から涸沢に向かって直登ルンゼをスキー滑降したというニュースが届いて驚いた。奥穂頂上から「逆く」の字形に折れ曲がって、岩壁と岩壁の間に雪が詰まったのが直登ルンゼである。(蝶ヶ岳からの写真をご覧下さい)
プロのガイドに連れられて涸沢からザイテングラード、奥穂山荘を経由して登頂。上部は雪が固く凍ってアイゼンを食い込ませるのに足首が痛くなるほどだったそうだ。
山頂付近でアイゼンからスキーに履き替える。頂上直下は岩壁が迫って狭く、氷結した急斜面が続いて危険なので横滑り、斜滑降で少し下ってから滑降を開始した。
プロのガイドに付いて、ヘルメットを着用しているものの、一つ間違えば死に至るかもしれない冒険である。無事涸沢カールの底まで滑り終えて緊張から開放された時、「無事に今、生きている」という生の実感、充実感を強く感じただろうと思う。
日本でのスキー発祥の地、上越市高田の出身でもともとスキーの名手だったようだが、ゲレンデスキーに飽き足らず、オフピステスキー、山岳スキーの中でもアドベンチャースキーの類に進んだようだ。「今、生きている」という日常生活で味わえない充実感にはまってしまったのか、その後も北穂から北穂沢、富士山頂から大沢滑降のニュースが続いた。
 |
奥穂・直登ルンゼの滑降 後方は前穂・北尾根 |