免疫と細胞死 第3章 細胞死
武田計測先端知財団
専務理事 大戸範雄
免役と細胞についての「第1章 生命とは何か」が本誌に掲載されたのが、2022年5月20日で、「第2章 免疫」が掲載されたのが2022年7月22日であった。「第3章 細胞死」を投稿するのが、2023年9月なので、ずいぶん間隔があいてしまった。
第2章で、免疫応答に生理的な細胞死(アポトーシス)が重要な役割を演じていることを書いたが、アポトーシスの詳細な話は書かなかった。アポトーシスについて説明をするにはもう1章必要だと思ったからである。第3章 細胞死の第1節(3.1)では、外部からの侵襲(熱、圧力、物理的破壊、エネルギー不足等)による細胞の事故死(ネクローシス)と生理的な細胞死(アポトーシス)について説明した。本文の図1から図4までは私が描いたものである。稚拙な図になってしまったことをお許し願いたい。
第3章 細胞死の第2節(3.2)では、長年気になっていたアポトーシスと疾患(脳梗塞)について書いた。1990年代から2000年代にかけては、脳梗塞急性期の治療薬(脳保護剤)の開発が世界中で行われた時代であった。この時代には、脳梗塞(エネルギー不足)による細胞死は、全てネクローシスだと考えられていた。その前提のもとで治療薬開発が行われたが、世界中で合計1万人近くの患者を対象にした臨床試験は全て失敗した。1980年代からの20年間に細胞死研究は飛躍的に進んだが、その知見を脳梗塞治療薬開発に生かせなかったことが臨床試験失敗の根本的な理由ではないかと筆者は考えている。2000年代になって実験的脳梗塞ではネクローシスとともにアポトーシスが起こることが報告されるようになった。しかし、病理的な原因で起こる細胞の死は全て治療の対象であるとする考え方に立つと、アポトーシスは治療の対象となる。一方、病理的な原因で起きるアポトーシスは免疫応答であるとする考え方に立つと、免疫応答は阻害しない方がいいことになる。
この相剋の解決(パラダイムシフト)にはもう少し時間がかかりそうである。
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