免疫と細胞死 第2章 免疫
武田計測先端知財団
専務理事 大戸範雄
2.1 免疫反応のプレーヤー
免疫というと、ワクチンや抗体という言葉を思い浮かべる人が多いが、免疫反応では特徴的なプレーヤーが登場して病原菌を排除したり、抗体産生に関与する。また、生体には免疫反応のプレーヤーの活躍を支える装置がいくつか備わっている。この章では、そのような免疫反応のプレーヤーと装置について説明する。
免役反応のプレーヤーは主として白血球である。白血球には、血流に乗って体内を巡るもの(パトロール)と組織に留まるもの(駐在)がある。何れも骨髄で生まれ、組織や血中に配備される。血中をパトロールする白血球には顆粒球(主として好中球)、単球、リンパ球があり、組織に駐在する白血球にはマクロファージと樹状細胞がある。細菌などの病原菌が体内に侵入すると、組織に駐在しているマクロファージがその病原菌を感知し排除すると同時に危険信号(情報伝達物質、サイトカイン)を出す。サイトカインは組織から血管に到達し、血中をパトロールしている好中球に危険を知らせる。危険を察知した好中球は増殖し、血管外に抜け出して、細菌がいる組織に到達し、マクロファージと共に細菌を排除する。地域で起こった事件を駐在所にいる警察官が対処し、同時に応援を要請してパトカーが駆けつけるといった感じだろうか。
さて、装置である。全てのヒトの細胞表面には、特有の主要組織適合性複合体(Major Histocompatibility Complex, MHC)という糖タンパクが存在している。MHCには、1万数千種類の多型があり、それによって他人と区別される(MHCは遺伝するので、兄弟は4人に1人の確率で同じMHCを持っている)。MHCには細胞内に存在するタンパクを提示するという働きがあり、ウイルスが細胞内に侵入すると、細胞はウイルスの表面タンパクをMHC上に提示するようになる。免疫反応のプレーヤー(リンパ球の一つであるT細胞)はそれを目印としてウイルスに感染した細胞を排除する。 侵入した病原菌を排除するには3つの方法がある。病原菌を白血球の体内に取り入れて排除(貪食)する方法、病原菌に感染した自分の細胞を排除(細胞死させる)する方法、抗体によって細菌や毒素を無力化する方法である。核を持つ白血球(好中球、マクロファージ、樹状細胞)は食細胞と呼ばれ、病原菌を貪食する。リンパ球のうちT細胞とNK細胞が感染した自分の細胞を細胞死させ、B細胞が抗体を産出して細菌や毒素を無力化する。
~~続きはPDFファイルをご覧ください~~