人の体は約37兆個の細胞でできている。細胞が集まって組織ができ、組織が集まって器官となり、器官の集合体とそれを統括するシステムで人体ができあがっている。従って、細胞が死に(細胞死)、組織が死んで器官が機能しなくなると、個体は恒常性を維持できなくなって死にいたる。私が脳卒中急性期の治療薬の探索研究を始めた1980年代は、熱、圧力、虚血(血管が詰まって組織に血液が行かなくなる)、感染等の外的要因による全ての細胞死は治療の対象であった。ところが、細胞死に関する分子生物学研究の進展により、この考えが大きく変わった。発生や組織の防御(免疫応答)において、個体はあらかじめ設定されたプログラムに従って自らの細胞を殺して排除することが分かったのである。このような個体を維持するための生理的な細胞死はアポトーシス(apoptosis)と呼ばれ、もはや治療の対象ではなくなった。昨今、新型コロナによるパンデミックが進行しているが、ウイルス感染に対する生体の防御やガンの抑制においても、アポトーシスは重要な働きをしている。このような細胞死は、健康に関心がある中高年のOB諸氏にとっても興味があるのではと思い、少し書いてみることにした。
内容は、以下のようにしたいと考えている。
1章 生命とは何か
2章 免疫
3章 細胞死
4章 免疫と細胞死
5章 免疫の老化
5回の連載で、ここ40年間(1980年代~2020年)の細胞死に関連した生命科学の進歩について書くことにしたい。お時間のある方はお付き合いをお願いしたい。
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